これも一種の両想い

何処まで行けるか分からない。もしかしたら、この心臓は途中で根を上げてしまうかも知れない。
だから、一生、君を倖せにするなんて誓えない。だって、僕は君の一生を最後まで見守れないかも知れないから。
でも、僕は僕の命ある限り、君を大切に想う。それが、どのくらいの時間かは分からないけれど。
それでも。
それでも構わなければ。
僕に付いてきてくれますか?

まるで、ドラマの中の台詞みたいな言葉を綴って三杉さんが婚約を決めたのは、冬。
初雪が降った日のことだった。

そして、オレはその日。失恋をしたのだ。

 

――――――三杉さんが青葉マネージャーと正式に付き合うようになったのは、確かオレ達が中学2年の秋頃のことだったように思う。
三杉さんはいい加減な状態というものを嫌う人だったから、わざわざそんなことをオレ達に報告してきたんだけど、オレ達にしてみれば何を今更ってな感じだった。
だって、青葉さんはもともと小学校の時分からマネージャーとしてオレ達や三杉さんの傍にいて、それが当たり前で。しかも、もちろん彼女がオレ達の中では特に三杉さんの事を気にしていたことだって知ってたし、このまま自然な流れで、この2人はくっつくんだろうなぁなんてことも朧気に思っていたんだから。
だから、オレ達は、三杉さんからそんな報告を受けたからといって2人の関係を特別視はしなかった。
今までと同じ。いつもと同じ。
2人が一緒にいるところには、当然のようにオレ達も一緒にいた。
別にそれが自然な形なのだと思っていた。
2人は、端からみると、確かに恋人同士として申し分ないくらいに仲が良かった。
ケンカしているところなんて見たこともないし、いつも温かな空気を纏っていて。見ているだけでこっちまで倖せな気分になれた。
そう、倖せな気分になれたんだ。
だから、オレは見落としていたのかもしれない。本当だったら、もっと早く、当然のように気付いていなければいけなかったであろうことを。
そして、そういったことに敏感だったのは、やはりオレ達のような鈍感な男じゃなく女子達の方だった。
ある時、オレ達はクラスの女子のこんなことを言われた。
「あれじゃあ、弥生が可哀相よ」
「あんた達、少しは遠慮しなさいよ」
それを聞いてオレは思っていた。
三杉さんと青葉さんは確かに付き合っちゃいるけど、でも青葉さんはオレ達全員のマネージャーでもあるんだから、そんなこと関係ないじゃん。って。
今思うと、それは一種の願いのようなものだったのかもしれない。
自分達も其処にいていいのだと。此処にいていいのだと。
そう、誰かに許してもらいたかったのかもしれない。
少なくとも。オレは。

 

――――――ある日の夕方の出来事だった。
部活も終わり、帰り支度を済ませて校舎を出ようとしていたオレの所にクラス担任の先生が駆け寄ってきた。
「一ノ瀬、今、帰りか?」
「はい」
「じゃあ、帰る前にちょっとこれだけサッカー部の部室の横の資料室へ戻しておいてくれないか?」
そう言って手渡されたのはかなり分厚いファイルの束。
「じゃ、頼んだぞ」
っておい。
オレが反論しようとした気配を察してか、担任は逃げるように駆け去っていった。
ったく。これだから教師ってやつは。生徒を雑用係かなんかだと勘違いしてんじゃねえか。
ぶつぶつ口の中で文句を言いながら、オレはさっき履き替えたばかりの運動靴を上履きにはき直し、部室の方角へと向かった。
下校時刻も過ぎているので、廊下にもほとんど生徒の姿は見えない。
オレは何度か重い資料を抱え直しながらひっそりとした廊下を通り過ぎ、資料室へ行くため部室の前を横切った。
「……?」
カタンっと何か微かな音が部室から聞こえてきた気がして、オレは足を止めた。
おかしいなあ。もう全員帰ったはずなのに。誰か残ってたっけ?
オレは何の躊躇もせずにガラリと部室のドアを開けた。
すると。
「……きゃっ……」
小さな悲鳴が洩れ、重なっていた2人の影が慌てたように距離を取って開いた。
「……あ……」
沈みかけた夕陽に照らされた2人を見てオレは硬直する。
対する相手も、驚いた表情でオレを見返す。
「……す……すいません」
思わず謝ってオレはバタンッと勢いよくドアを閉めると、一目散に駆けだした。
資料室とは反対方向へ。
そして、オレは走った。何だかよく分からないけど走った。
その場所にいちゃいけないと思えて。
走って走って走った。
頭の中が真っ白になって、心臓がバクバク言った。
走ってる所為でバクバク言ってるのか、さっき見た光景に心臓が驚いてるのか、自分でもよく分からなかったけど、とにかく走った。
廊下を抜け、下駄箱を通りすぎ、校門をくぐり、走り続けた。
走って走って走って。
ようやく足を止めたのは、帰宅途中によく寄り道した小さな公園だった。
公園と言うにはあまりにもお粗末な小さなブランコと砂場だけがぽつんとある場所。
オレはまだバクバク言ってる心臓を落ち着かせようと、錆びたブランコに腰を降ろした。
呼吸が荒い。
「あ……やべ」
下を見下ろしてオレはため息をついた。
手に例の重いファイルを持ったままなのは当然として、なんとオレの足は上履きをはいたままだったのだ。
「う〜ん。何やってんだオレは……」
余程慌ててたんだ。靴を履き替えることも忘れるほど。
ってか、そりゃそうだ。まるで逃げるようにオレはあの場所から走り去ったんだから。
って、何でオレ、逃げたんだろう。
オレはぼんやりと薄曇りの空を見あげた。
邪魔したから?
2人の邪魔をしてしまったと思ったから?
だからオレは逃げた。文字通り逃げた。
邪魔……だよな。
やっぱり、あれはどう考えても邪魔なんだよな。
オレは頭を抱えて、もう一度大きくため息をついた。
「…………」
そして、オレは思い出す。
さっき部室に居たのは、三杉さんと青葉さんだった。
そして、あの時、2人はキスをしていた。
「…………」
かあっと頬が熱くなった。
当たり前のことだ。
だって2人は付き合ってるんだから。当然のことだろう。
今までないと思ってたほうがおかしいんだ。というか、ないわけない。
健全な男女が何年も付き合ってて、キスのひとつもしてないなんてことあり得ない。
分かってたことなのに。
ほんの一瞬。
音に驚いて声をあげた青葉さん。とっさに離れた身体。
オレがあの2人の姿を見たのは、時間にしてみれば、それこそ0.1秒にも満たないかもしれない。
でも、はっきりと見えた。重なった2人の影。唇。
陽に透けた三杉さんの栗色の髪。愛おしそうに彼女の髪に絡められていた指先。少し震えていた睫毛。微かな吐息さえ聞こえてきてたような気もする。
違う違う。そこまで分かる程、見てない。想像で話を進めるな。オレ。
オレは記憶を振り払うように力一杯頭を振った
「…………」
でも、その姿はオレの記憶から落ちていってはくれなかった。
いくら頭を振っても、頭から落ちていってはくれなかった。ずっとずっと離れなかった。
『あんた達、少しは遠慮しなさいよ』
憎らしい事に、クラスの女子が言った、そんな言葉を思いだしてしまった。

 

――――――そして次の日、オレは部活を休んだ。
理由としては明日香の薬を病院へ取りに行かなければいけないから。
そうみんなに言っておいてくれと告げたオレに、真田は一瞬だけ妙な顔をした。
ほら、嘘はすぐにばれる。
だって本当は薬を取りに行くのは部活を終えてからでもよかったんだから。その証拠にいつもはそうしていた。
「悪い。今日は勘弁」
片手を顔の前に立て、頭を下げたオレに真田は仕方ないなあといった表情で頷いた。
「三杉さんには直接言っておかなくていいのか?」
「いい」
本来であれば、休み報告は直接部長である三杉さんかマネージャーに言うべきことだ。でも、それではオレにとって意味がない。
つまり、オレは逃げたんだ。
昨日と同じ。オレは逃げたいと思ってるんだ。
オレは、三杉さんと顔を合わせる自信がない。三杉さんの目を冷静に見られないような気がしたんだ。
情けない。
本当に情けない。
夕べからずっと頭の中に、あの光景が浮かび続けている。本気で精神衛生上よろしくない。
オレは重い足取りで、それでもゆっくりと病院へと向かった。
病院の受付へ行くと、看護師さんが「あら、今日は早いのね」と驚いた顔をしてオレを見た。
オレは困った顔で曖昧に頷く。
「いつもだったら、部活終わってから来るのに。何? 今日は休みだったの?」
「ええ、まあ、そんなところです」
オレは言葉を濁して誤魔化した。
「そうなんだ。あら、じゃあ三杉君もそろそろ来る頃かしら?」
「………え?」
「部活終わってからって言ってたんだけど、早めに来るかもしれないわね。休みになったのなら」
三杉さんが来る。此処に。
オレは思わず受付の壁に掛かっている時計を見あげた。
定時で練習を終えたとしたら、あと30分ほどだろうか。いや、もしかしたら、もうすでに近くまで来ているかもしれない。
「もう……大丈夫よ。この間の検査結果を聞きにくるだけだから。心配しなくても」
オレはそうとう心配そうな顔をしていたのか、看護師さんが安心させるように微笑んでくれた。
「あ……そう……ですか」
僅かに声が震える。それを安心した吐息だと勘違いしたのか、看護師さんはくすりと笑って立ち上がった。
「ちょっと待っててね。明日香ちゃんの分、処方するから」
「あ、はい」
薬剤師さんが準備をしている間、オレはロビーの椅子に座って待っていた。やけに時計の音が大きく聞こえ、それに合わせて三杉さんの足音が近づいてきているような気がした。
「お待たせ、一ノ瀬君」
先程の看護師さんが受付からオレを呼んだ。
「じゃあ、これが1週間分ね。はい」
「あ、有り難うございます」
「ホント、いつもいつも偉いお兄さんよね。君は」
「そんなこと……」
「あら、謙遜。三杉君も言ってたわよ。一ノ瀬君はすごいって」
「…………!」
三杉さんの名前に心臓が反応する。とたんに頬が熱くなる。
「あら、噂をすればなんとやら。三杉君が来たわよ」
「……!?」
とうとう来てしまった。
振り返ると、三杉さんが早足にこちらへ向かって歩いて来るのが見えた。
さっきの比ではないほど心臓がおもいっきり大きく鳴った。
硬直しているであろうオレの表情を見て、三杉さんがほんの一瞬だけ眉をひそめる。
しかし、次の瞬間なんでもなかったようにいつもの表情に戻り、三杉さんは柔らかな笑顔のままで受付の前、つまりオレの隣で立ち止まった。
「すいません。ちょっと予定より早く来ちゃったんですが、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。先生もお待ちよ。ちょっと待ってて、知らせてくるから」
看護師さんはすっと立ちあがって、担当医師の呼びだしコールを鳴らす為に席を立った。
「一ノ瀬」
「……はい」
反射的に返事をする。三杉さんはオレの方には目を向けないまま言った。
「これから時間ある?」
「え……あ、はい」
「じゃあ、ちょっとだけ待っててくれる? すぐ終わるから」
「……はい」
オレが小さく頷くと同時に、看護師さんが再び顔を出した。
「三杉君。すぐに先生降りてくるから、診察室Aで待ってて」
「分かりました。じゃあ、一ノ瀬、あとで」
「……ええ」
「いつもの所で」
そっと囁くように言って三杉さんは受付の向こうへ消えていった。
いつもの所。
それは病院の傍の散歩コースの中にある緑の空き地。オレが明日香の様子を見に、よく立ち寄る場所だ。
オレは三杉さんが去っていった方向に一瞬だけ目を向け、約束通りいつもの場所へと向かった。

 

――――――「ごめん。待たせて」
三杉さんがそう言って姿を現したのは、受付で別れてから20分ほど経った頃だった。
「すぐ終わると思ったんだけど、意外に先生の説明が長くて。ごめん」
「いいえ。大丈夫でした? 検査結果」
「うん。値は悪くなかった。というか、現状維持?」
ほんの少し自嘲的に三杉さんが笑った。
「そうですか」
何度目だろう。この人とこういった会話をするのは。
そんなことを思いながら、オレはさっき購入しておいた珈琲の缶を三杉さんへ渡した。
「どうぞ」
「有り難う」
御礼を言って三杉さんは缶を受け取ったけど、何故かプルタブに指をかけず、持てあますように手の中で転がした。
「三杉……さん?」
「あの……さ、一ノ瀬。ひとつ聞いていい?」
「…………」
自分の表情が強ばるのがわかった。
「今日、部活を休んだのは何故?」
「……え……と……真田から聞いてませんか?」
少しだけ誤魔化してみる。無駄だとは思うけど。
案の定、三杉さんは呆れたようにため息をついた。
「明日香ちゃんの薬を取りに行くっていうのは聞いたけど、それは本当の理由じゃないよね」
「なんで、ですか?」
「…………」
三杉さんはオレの方を真っ直ぐに見ている。オレは決まり悪くて視線をそらす。もうこの時点で負けを認めたようなものじゃないか。
ダメダメだ。オレって奴は。
「一ノ瀬」
「はい」
「昨日の……」
ドクンっと心臓が飛び跳ねる。
「見た……よね」
「…………」
オレはギュッと目をつぶった。とたんに昨日の部室での光景が頭の中に蘇る。
やばい。
慌ててオレは目を開いた。まだ現実の地面でも見ていたほうがマシだ。
「すいません」
「どうして謝る……の?」
どうしてって。そんなことこっちが聞きたい。
どうしてオレはこんなに後悔してるんだ。昨日部室のドアを開けてしまったことを。
どうしてオレは昨日のあの光景が忘れられないんだ。
どうしてオレはこんなに苦しいと思ってるんだ。胸が痛いんだ。
オレは何を考えてるんだ。
オレは。
その時、下を向いたオレの目の端に握りしめた三杉さんの拳が映った。
「…………?」
何だろう。三杉さんの手が震えているような気がした。
「……三杉さん……?」
思わずオレが顔をあげると、三杉さんが酷く辛そうな表情をしてオレを見つめていた。
「軽蔑……した?」
「……え?」
一瞬、何を言われたのか分からなくて、オレはキョトンとした表情をしただろう。
「何?」
「だから……軽蔑したろ? 部室で……あんな」
「まさか!!」
思わず叫んで、オレは三杉さんの肩を揺さぶった。
「何言ってるんですか!? なんで軽蔑とかするんですか!? 意味分かんねえ」
「……じゃあ、どうして今日僕を避けてたんだよ」
言葉に詰まってオレは三杉さんの肩を掴んでいた手を離した。
「僕と顔を合わせたくなかったから、君は今日部活に来なかったんだろう。それくらい分かる」
「違っ……」
やはり言葉が続かない。
だって、それは事実だから。
三杉さんと顔を合わせたくないと思ったのは本当だったから。
でも、それは三杉さんが思ってるような理由じゃなくて。そうじゃなくて。
「違う……違うよ。今日行かなかったのは確かにあなたの顔をまともに見る自信がなかったからだけど、でもそれは……」
「…………」
三杉さんは真っ直ぐにオレを見る。
「オレ……オレの方こそ、今まで邪魔ばっかしてたんじゃないかって思って……」
「邪魔……?」
「オレ……オレ達がいつもいるから、三杉さん、困ってたんじゃないかって思って……本当は青葉さんと2人きりになりたかったのに……いつもオレ達が、じゃ……邪魔して……だから離れたほうがいいのかもって……」
だからってそんなこと部活を休む理由になんかならないだろう。
そもそも、この人は部活の時間帯に2人きりになろうとするほど酔狂な人じゃない。そんなことは分かってる。
だけどほかにどう言えばいい。
これ以外の理由をオレはこの人に告げることなんか出来ない。
それとも。
本当の事を言うか?
オレの今の気持ちを言うか?
出来るわけないよ。だってオレにだって分からないんだから。
全然分からないんだから。
どうしてこんなに胸が苦しいのかとか。
どうしてこんなに悔しいのかとか。
どうしてこんなにあなたのことを。
あなたのことを。
オレは、あなたのことを。
オレは。
「邪魔になると嫌だから……離れるんだ……」
一通りオレの言い訳を聞き終えたあと、三杉さんはポツリと言った。
「そうか……そういうつもりなんだ」
「…………」
「分かった。だったら、僕は彼女を諦めるよ」
「…………」
「それならいいよね」
「…………」
突然、何を言い出すのだ。この人は。
オレはかなり間抜けな顔をして三杉さんを見つめた。
「君達が気にして僕から離れるっていうなら。分かった。僕は弥生君のことを諦めるよ」
「ちょ……」
「僕が彼女と付き合うことで、君が去っていくのであれば、僕は……」
「ストップストップストップ! 何言ってんですか!? 三杉さん。冗談でしょう?」
「冗談を言ってるように見える?」
聞き返してくる三杉さんの目は真剣そのものだった。
「…………」
駄目だ。それ以上言ったら駄目だ。いくらなんでも。それ以上言っては駄目だ。
「三杉……さん」
「酷いことを言っていると思う。でも、これは僕の本心だ」
「…………」
「僕は君が好きだよ」
「何……言って……」
「もちろん、僕は男だから、弥生君への気持ちと、君への感情は同じではない。同じ括りでは考えられない。でもね、同じくらいに大切であることに変わりはないんだ」
「…………」
「だから……君を失うことが前提となるのなら、僕は何の迷いもなく彼女を諦める」
「…………」
分かってる。
この人は、オレがそんなこと言われて、はいそうですかと言ってこの人の前から去ることも、青葉さんと別れることを望んだりするわけもないことを見抜いてる。
オレだって、この人を想うのと同じくらい、青葉さんや武蔵のみんなを大切に想ってることを分かってる。
オレがどうしようもないほど、この人に惚れ抜いてることを分かってる。
分かってて。全部分かってて言ってるんだ。
なんて卑怯者なんだ。
「卑怯だ……卑怯だよ。三杉さん」
「うん」
分かってるよと言いたげに、三杉さんは頷いた。
「あなたは……本当に最低だ」
「うん」
「これ以上ないくらい酷い人だ」
「うん」
「確信犯にも程がある」
「それはちょっと意味が違うよ」
くすりと三杉さんが笑った。
酷い人だと思う。
何もかもすべて分かって。この人はすべて分かってやっているんだ。
これでは、まるでオレは三杉さんの手のひらの上で躍ってる孫悟空みたいじゃないか。
でも。
でも、それでも憎めないのは。許してしまえるのは。
オレが向けている想いを、この人は全部受け止めて、真っ直ぐに返してくれるからなんだ。
オレが向けた気持ちの強さと同じだけ強い想いを真摯に返してくれる。
同じだけの想いを返そうとしてくれる。
だから。
本当に。
どうしようもなく、オレはこの人に惚れている。
そうだよ。認めるよ。
オレはこの人が好きだよ。
今まで逢った誰よりも、これから出逢うであろう誰よりも。
オレはこの人に惚れている。
それは恋愛感情ではないけれど。きっと違うのだろうけど。
「…………」
無意識のうちにオレは三杉さんを抱きしめていた。
本当はもっときつく、もっと強く抱きしめてやりたい。それこそキスくらいしたい。
でも、そこはオレの鋼鉄製の理性で無理矢理押さえ込む。
いつまで保つか分からないけど。
そう思った時、そっと三杉さんの手がオレの背中にまわされた。
ふと、思う。
これも一種の両想いってやつなのだろうか。
なんて。

 

――――――そして、三杉さんが冒頭の台詞を言って青葉さんと正式に婚約をしたのは、それから5年程あとのことだった。
オレ達は盛大に2人を祝福し、その後、小学校時代からの腐れ縁である旧武蔵FCのメンバー4人(オレ・真田・本間・木戸)だけで、こっそりと大失恋会を催した。
”大”ってつけておいて何がこっそりだとか言わないで欲しい。文句ならそう命名した真田に言ってくれ。
「……にしても失恋会ってさぁ、お前、もしかしてマネージャー狙ってたりしたのか?」
本間がこそっと真田に聞くと、真田はまっさかぁと笑って首を振った。
「んなわけねーだろ」
「じゃ、誰に対しての失恋会なんだよ」
「そんなの決まってるよ。2人にだよ。なあ、一ノ瀬」
下手くそなウインクをして真田がオレを見た。
オレは肯定の意味を込めてにやりと笑った。

FIN.  
※タイトル変更しました。(旧題:失恋)   

 

 

後記

お疲れさまです。如何でしたでしょうか。
233000HITキリ番リクエスト。お題は「三杉さん(或いは武蔵)の話」でした。
私的、C翼界の中でのベストカップルは三杉さんと弥生ちゃんなのです。
でも、だからって一ノ瀬達の存在も捨てがたい。
というわけで、今回はこんな話になってしまいました。最初は婚約ではなく、結婚式の話をちょこっと考えてみたんですが、さすがにそれは一ノ瀬の鋼鉄製の理性も吹き飛びそうな気がしたので、一歩引いてしまいました。(←おい)
なんか、一ノ瀬って一生結婚出来なさそう。それもマズいなぁぁぁぁ……
なんというか、お題っていうほどのお題もなかったので、好き勝手やってしまった(やらかしてしまった?)ようなのですが、えむえむさん。こんな話でよろしかったでしょうか。
ではでは、武蔵FCのメンバーを今後とも宜しくお願いします。

2009.07.19 記   

目次へ

 

是非是非アンケートにお答え下さいませませ(*^_^*)
タイトル
今回の内容は? 
今回の印象は?
(複数選択可)
感動した 切なくなった 面白かった 哀しかった
期待通りだった 予想と違った 納得いかなかった
次回作が気になった 幻滅した 心に響いた
何かひとこと♪
お名前 ※もちろん無記名でもOK